つながるエシカルでは、ICUのOBに対してOBの方が持っている思いや行っている活動、そして私たちが行動に移せることをインタビューし、記事にまとめています。この記事が、自分らしさを考える手助けになれば幸いです。
今回は環境研究(GEN054)でも公演された羽生田さんにお話を伺いました。後編では、ICUの特色と学生の持つポテンシャルについて語っていただきました。
<羽生田さんのプロフィール>
羽生田慶介。国際基督教大学卒業。現在は、株式会社オウルズコンサルティンググループ 代表取締役CEO、経済産業省大臣官房臨時専門アドバイザー、一般社団法人エシカル協会 理事として活動。
記者)環境研究の授業(春学期のGEN054)で、日本では、SDGsの環境に関心が偏重しているというお話がありましたが、その偏りはどうすれば解消されるのでしょうか。ICU内でSDGsに関するアンケートを行った際、一番関心が高かったのがジェンダー問題、人や国の不平等をなくそう、貧困をなくそう、つくる責任つかう責任でした。一方、関心が低かったのが、安全な水とトイレを世界中に、エネルギー問題、働き甲斐と経済成長、産業と技術革新でした。
羽生田)まず、ICUでのSDGsアンケート結果は、非常にICU生らしいなと思いました。国連の調査では「日本人は環境ばかりに意識が偏り、人権に関心がない」という結果だったのですが、やはりICU生は普通の日本人とは少し違いますね。
正確には、日本に必要なこととして環境研究の授業でお伝えしたのは、「偏りをなくす」ことではなく、「人権への関心を高める」必要性です。個人が、全部のSDGs目標に対して等しく当事者意識を持つことは難しいと思います。生活者自身や個別企業が「わが事」と捉える社会課題のことを「マテリアリティ」や「マテリアル・イシュー」と呼んだりしますが、「他の誰もやらなくても自分がやる」というテーマをひとつでもしっかり持つことが重要です。
また、真の変革者になろうと思うのであれば、変えたい相手の論理に沿ったアプローチで臨む覚悟が必要です。ジェンダー問題にせよ、エネルギー問題にせよ、課題を指摘して糾弾するだけでは世の中は変えられません。これまでの資本主義は多くの問題を生んできましたが、最近の風潮として「脱資本主義」のお題目だけ唱えるだけで物事の本質をわかったような気になることには懸念しています。はっきり言っておきたいのは、「脱資本主義」や「脱成長」なんていうもののために、企業が今年、サプライチェーンにおける児童労働や強制労働をなくすために自社のお金や人を充てることは絶対にありません。日本が現在の資本主義のなかで敗色濃厚となったからリセットボタンを押したいという、多くの日本人が抱えるそんな気持ちも理解できますが―――極論に逃げることなく、正しくひとつひとつ社会課題解決をする行動主体でありたいと思っています。ICUのリベラルアーツであれば、大局的な物事の見方と、現実的な行動主体としての歩み方の両方が学べると信じています。
記者)学生のうちにしておくべきことは何ですか?
羽生田)この質問にお答えする前に。実は、私はICU在学中、決して真面目な学生ではなかったことだけ言い添えておきます(一同笑)。
ですが、振り返れば、学生時代にいろいろな種類の人に会い、多くの可能性を知ることができたことは良かったと思っています。特に、自分と異なる立場にいる人との接点を持つことは重要です。ICUの学生は、比較的恵まれた環境下で育ってきたのではないでしょうか。一方で、大学に通いたくても通えない若者は、日本にも世界にもたくさんいます。自分とは全く異なる立場の人と触れ合うことで、価値観は一つではなく、複数あると知ることができます。そのとき自身の世界が広がるでしょう。
学生の頃から計画的な将来ビジョンを描けている必要は全くありません。もっと言えば、20代のうちはずっと「やりたいこと」「興味があること」を追って、半ば「思いつき」で動いていて何も問題ないと思っています。有名なスティーブ・ジョブズのスタンフォード大学でのスピーチでも出てきた表現ですが、想いのままいろいろ経験し、後から振り返って「Connecting the dots(点を繋ぐ)」ができていれば良いのです。ですが、これには「条件」があると思っています。それは、ひとつひとつのドット(点)が、繋がるに足るだけの十分な大きさになるぐらい黒々と打たれていることです。今やっていることに全力で取り組み、成果を出すことが、将来繋がりを生む条件なのです。学生だと、部活やサークルなどが挙げられると思います。サークルの場合でしたら、そのサークルの中で目に見える成果を出し、サークルの仲間に価値を認められるような存在になりましょう。ドットを打ち続けていくことで、将来大きな成果につながるはずです。
記者)新しい環境に飛び込むとき、大切にしている考えはありますか?
羽生田)私は「アンラーニング」を大切にしています。アンラーニングとは、これまで培ってきた知識や経験を一度脇においておき、新しい気持ちで学ぶことを言います。とある分野である程度経験を積んだ人が他の分野に挑戦する。このような状況では、過去の経験を次の分野で最大限生かしていく、これが一般的だと思います。しかし、私は過去の経験は一度置いておき、全く新たな気持ちでチャレンジするようにしています。新しいことを学ぶなかで、なかなか受け入れられないものに出くわすことがあります。なぜ受け入れられないか。それは、新しい知識が今までの価値観や常識に反するからです。転勤先の上司の教えが、過去の上司の教えと全く異なることもあると思います。それでも、まずは受け入れることで、新たな気づきや発見へとつなげることができます。ウサイン・ボルトがサッカーに挑戦したり、マイケル・ジョーダンが野球に挑戦した例がありますが、これもれっきとしたアンラーニングです。
ですが同時に、「アンラーニング」を「言い訳」に使わない覚悟も必要です。「自分はまだ経験が浅いから」「まだしばらくはイチから学んでいる最中だから」という謙虚さは、ときにチャレンジする意欲を阻害します。とにかく勝負をすることが大事です。具体的なアクションとしては、とにかく少しでも「発言」することです。初めての場では発言を躊躇しがちです。でも、厳しいことをいえば、黙っている人間にはその場における価値がないのと同義とされることがあります。少なくともビジネスの世界ではそう断じられます。一言でもいいから、発言すること。チャレンジし続けること。これは、学生時代から身に付けられる習慣です。
以上が羽生田さんのインタビューとなります。自分の興味のあることをすることで自分が大切にしたいものを見つけ、そうすることで他者との対話も可能になる。「アンラーニング」の姿勢で挑戦し、他者を受け入れることの大切さを心に留めたいと思います。
感想や意見など、Google form(リンク)からお待ちしています。
ここまで読んでくれてありがとうございます。また別の記事でお会いしましょう!
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