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執筆者の写真YUJIN SAGISHIMA

3つのセクターから社会変革に取り組む。OB羽生田さんにインタビュー(前編)

つながるエシカルでは、ICUのOBに対してOBの方が持っている思いや行っている活動、そして私たちが行動に移せることをインタビューし、記事にまとめています。この記事が、自分らしさを考える手助けになれば幸いです。

今回は環境研究(GEN054)でも公演された羽生田さんにお話を伺いました。前編では、羽生田さんが考える社会変革について語っていただきました。


<羽生田さんのプロフィール>

羽生田慶介。国際基督教大学卒業。現在は、株式会社オウルズコンサルティンググループ 代表取締役CEO、経済産業省大臣官房臨時専門アドバイザー、一般社団法人エシカル協会 理事として活動。

 

記者)羽生田さんは行政、ビジネス、市民団体の3つの分野に渡って活動をしていらっしゃいますが、その原動力について教えてください。

羽生田)原動力に関しては主に2つあって、「危機感」と「勝算」です。コンサルタントらしく表現すれば、「危機感」が「Issue Identification(課題特定)」で、「勝算」が「Problem Solving(問題解決)」に相当する思考回路になります。まず、社会問題に対して、「これは行政・ビジネス・NPO/NGOの総力をあげて新たな取り組みをしないと取り返しがつかなくなるぞ」という危機感が、解決すべき課題の特定につながります。これに加えて、解決の実現可能性も大事にしています。「これならなんとか世の中を変えられそうだ」という勝算を、わかりやすく多くの人に伝えられるアプローチを意識しています。変えなければいけない必要性だけを叫んでいても世の中は変わりませんし、現実離れしたビジョンを提言しても結局目標の達成には至らないでしょう。正直に言えば、これまで世の中が解決できなかったことを、目が覚めるように新しく、しかも分かりやすいアプローチで解決するような方策は、そんなにたくさんは考案できません。ですが、日々考え抜き、多くの意見を取り入れたうえで「勝算」を見出した社会課題解決には、強烈な「この指とまれ」ができるという実感があります。色々なセクターが力を合わせる「Collective Impact」というアプローチとることで、より良い社会が作れると思っています。

例えば、今、児童労働を無くすための「Child Labor Free Zone(児童労働のない地域)」という制度とそれを発展させた国際通商ルール作りを進めています。これによって、もしかすると企業のサプライチェーンから一気に児童労働がなくなるかもしれないという期待をしています。

これまで、日本を代表するNGO「ACE」と連携し、アフリカのガーナでこの「Child Labor Free Zone」という政府制度を実現させました。この制度によって、「児童労働がなくなる地域」を特定できるようになったわけです。今度は、この地域でつくられたカカオなどの製品には、児童労働をなくす努力に見合う、特別な恩典としてのグローバルな経済的メリットを作ろうとしています。具体的には、「Child Labor Free Zone」産のカカオなどは、国際的な輸出入における関税をゼロにするためのルールづくりをWTO(世界貿易機関)と相談し始めました。例えばガーナで児童労働していたカカオ農家が児童労働をやめることができたとしましょう。もしも子どもでなく大人が作業することで少しコスト増になってしまったとしても、その後工程でかかるカカオペーストやチョコレートにかかる関税をゼロにすることができれば、最終的なコストとしては「児童労働してしまったほうが高コストになる」仕組みが作れるのです。こういうアプローチを私は「経済合理性のリ・デザイン」と呼んでいます。

もちろん、このルールだけで発展途上国の貧困が解決するとは考えていません。ですが、児童労働が減少することで、子供達が学校に行けるようになったり、そのために道が舗装されたりして投資を呼び込む、という経済効果も期待できると思っています。


記者)行政、ビジネス、市民団体の3つのセクターに携わる中で、良かったことと大変だったことについて教えてください。

羽生田)良かった点はやはりそれぞれのセクターの考え方が理解できる点です。「政府が動いてくれない」「民間企業がついてこない」「NPO/NGOは経済合理性を考えない」――など、各セクターそれぞれの論理を知らないと、「〇〇がダメだ」という「糾弾」「批難」で会話を終えてしまいがちです。各セクターの「当事者」になることで、物事が動かない理由や、乗り越えなくてはならない課題がより明らかになります。そして何より、それぞれのセクターの「身内」として語ることができることは大事なことです。学校でも、教師から頭ごなしに命じられるより、生徒たち同士で話し合って決めたことのほうが納得感あることと似ているかもしれません。日本は特に人材の流動性が低いこともあり、各セクターをまたがるような転職をする人が多くありません。私のようにこれら3つのセクターに同時に籍を置く人材はいま重宝されることが多くなっています。ですが、各セクターの抱える課題を理解することは、「できない理由」がいくつも思いついてしまうことと表裏一体です。それを乗り越えて具体的な解決策を考える大変さがあることも事実ですね。


記者)環境研究の授業(春学期のGEN054)で講演された時に、SDGsはヨーロッパ発の目標という側面があるというお話がありましたが、そのように、日本から何か新しい目標を世界に向けて発信することは可能だと思いますか?

羽生田)日本から国際ルール形成をすることは可能だと考えています。

少し難しい話ですが、ヨーロッパがSDGsのような大きな世界的目標の主導的な立場になれた理由のひとつには、「規範パワー」というものがあります。これは「正しいことを正しいと言い切る力」のことです。「軍事パワー」「経済パワー」と並び立つ存在としての「規範パワー」を大事にしていることがヨーロッパの強い点です。この点、いまの日本がSDGsのような「全体論」でヨーロッパと同じような発信力を持つことは少し難しいかもしれません。日本はむしろ、いくつかの具体テーマの中で、日本の強みを活かして各国の社会課題解決の役に立つルール形成をリードすることになると思います。

現在、私自身は2つの日本発の国際標準の目標を進行中です。1つ目は「Society 5.0」という社会づくりです。簡潔に言うと、サイバーとフィジカルを組み合わせて社会問題を解決するというもので、これによって「ひとびとの生活に“我慢を強いない”サステナビリティ」を目指しています。

2つ目は、「衛生の定義」です。世界から見た日本のイメージは「きれい」が大半を占めています。例えば、コロナが収束したら行きたい国ランキングでは、日本が1位となり、その理由の1つとして、清潔であることが挙げられています。しかし、世界で統一された衛生の基準というものが存在しないので、世界的に見て清潔だと考えられている日本が、これをリードできると思います。この衛生の定義に関しては、特に、ホテルや観光地での適用を考えています。

 

以上が羽生田さんのインタビューとなります。社会について、そして社会変革について、何か感じることがあったでしょうか?

感想や意見など、Google form(リンク)からお待ちしています。

ここまで読んでくれてありがとうございます。また別の記事でお会いしましょう!


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