岩切学長 × SDGs推進室 インタビューシリーズ(その1)
「つながるエシカル」は、授業の担当教授にその授業に対する思いや授業内容についてインタビューを行い、まとめた記事を掲載する、ICU生によるWebメディアです。記事が、自分らしい日常を過ごす手助けになれば幸いです。
今回は「岩切学長 × SDGs推進室 インタビューシリーズ」と題しまして、SDGsの観点から岩切正一郎学長にお話を伺いました。全3回の本シリーズ、第1回目は、SDGs17の目標を、岩切学長の視点から紐解いていきます。
<岩切学長のプロフィール>
東京大学大学院博士課程満期退学。パリ第7大学DEA。国際基督教大学アドミッションズ・センター長、教養学部長を経て、2020年4月から学長就任。文学メジャー担当。専門は、近現代フランス詩、フランス演劇、フランス文学。
町井)はじめまして。私は、SDGs推進室の学生メンバーで、記者として活動しています。ICUでSDGsの達成に向けて行動する意味や、学生にできることなどを考える上で、まず、学長の想いを知りたいと思い、今回インタビューをお願いさせていただきました。
町井)まず、学長が社会に向けて大事にしている想いや価値観をお話し頂いてもよろしいでしょうか?
学長)今後、ますます、例えば、知性(インテリジェンス)においてさえ、人工的なものと自然が組み合わさった世界が人間によって作られていくと思うのだけど、その上で、僕は、”habitable”、つまり、「住むことができる」ということがとても大事だと思っています。例えば、皆さん、観光で、自然豊かなところでリフレッシュしたり、文化の蓄積された町を訪れて満喫して、帰ってきますよね。でも、それって、ある意味では、夢のような場所ではあるのですが、なぜ、帰ってくる日常にそれがないのかと不思議に思いませんか?僕は、自分の住んでいる場所を、自分の行きたい場所に変えちゃえばいいのに、と思ってしまう。人が「住むことができる場所」を作る、の「住む」というのは、ただ便利というだけではなくて、自然の声が聞こえるとか、人と人との繋がりがあるとかを含んでいるんだと思います。豊かではなくても生活ができて、生き方を深めていくことができる、という暮らしの在り方があるべきじゃないのかな、というのを昔から考えています。
町井)学長の大事にされている価値観、”habitable”には、「いかに理想を実現していくか」ということが含まれるということでしょうか?
学長)そういうことではないかな。例えば、ICUはキャンパスとしては、すごくhabitableな場所だと思います。言い換えると、苦しいこともあるけれど、人々は権利が保証されていて、とにかく自分はここで生きているぞ、という実感がある空間です。つまり、habitableというのは、生きる実感を持つ場所であって、単に理想の空間ではないわけです。人間が人間である以上は、苦しみや悲しみがあって、ある程度争いも生まれる。理想とは違う世界だからこそ、自分で、「自分が生きられる場所にする」というのが大事だと思います。
町井)生きる実感を持つことができる空間、で生きるということですね。この価値観は、SDGsとどのようなつながりがあるとお考えですか?
学長)理想はそれぞれ個人で違いがあるものなので、理想の実現を広めるのは、下手すると独善的になる可能性があります。理想は危険な面も持ち合わせている。だからこそ、SDGsのように、実感的で具体的な、統一された指標が必要なのだと思います。僕の専門は文学なんですけど、18世紀から19世紀にかけてのドイツの詩人、ヘルダーリンが「詩人として世界に住む」という言葉を残しています。つまり、功利的にとか、お金儲けを考えるのではなく、自身の生き方を思索できる場所に住んで、自分でその生き方に意味を見出していくというのが大事だと思っています。これは、かなり抽象的な話ですよね。実現のために、SDGsという明確な目標が定められていると、共感しやすいのではないでしょうか。
町井)SDGsの17の目標とhabitableの関係性をもう少し伺えますか?
学長)SDGsのD、つまり、”development”をどう解釈するかが重要だと思います。これは、開発や発展というような、前に進んでいく思想です。”No one is to be left behind”、いわゆる、「誰1人取り残さない」というのがありますよね。「先に進んでいくから君たちもおいでよ」という考えが根底にはあって、それを「取り残されている側」から見ると、取り残したのは君たちでしょう、となる。個人的に、その思想には疑問を感じていて、「取り残された人たち」は、彼らの生き方で満足しているかもしれなくて、その場合、必ずしも彼らを進歩の中に取り込む必要はない、と僕は思います。ただ、この17の目標は、世界全体をIT化しよう、工業社会にしよう、とかそんな話じゃなくて、人間らしく生きるための条件を整えよう、という目標だから、僕は良いと思っているんです。人が人らしく生きるための環境形成には欠かせない、人権宣言や、自然環境とも結びついている部分も、素晴らしいなと感じています。
町井)私は現在、環境学や開発学を学んでいて、実は、「前に進もう」というdevelopmentの在り方に自分なりに違和感を持っていました。上手く言語化できず悩んでいたので、解釈の重要性に関するお話が印象に残っています。
学長)それに関して、アフリカに、ピグミーという部族がいるんですよ。これは現地で活動している友人から教えてもらったことなのですが、彼らは、森の中で生活をしていて、そこにいる動物を殺して食べたり、木を切って自分たちの家を建てたり、自然に手をつけながら自然と共存しています。しかし、彼らの生活様式を、純粋に自然保護という立場から見ると、それは森の破壊なんです。ピグミーの開発から自然を守ろうと、自然保護区にしてしまうと、彼らは森から追い出されて、別の居住区に住まわせられて、そこで、いわゆる発展した人たちと一緒に暮らしなさい、となる。「自然保護を完璧にやるか、やらないか」という二項対立で考えると、その狭間に存在する、「開発しながら共存する」という生き方の人が排除されてしまうんです。本当に人間の手が入っていない、純粋な自然が根底にあるけど、もともと自然というのは人間が手をかなり入れることで形成されたんじゃないかな、と思います。実際、ICUは自然が豊かだけど、原生林じゃないんだよね。人間が手を入れながら守ってきた。開発を排除して開発ゼロの自然保護というのがありえるのでしょうか。だからといって、ただ開発すればいいというわけではない。現地の人が幸せになる開発かどうかを考えることが大切だと、僕は思います。ぜひ、今後も勉強してみてください。
以上、岩切学長のインタビューでした。
感想や意見など、Google form(リンク)からお待ちしています。
また、岩切学長へのインタビュー記事は、その2、その3もございますので、そちらも是非確認してみて下さい。
ここまで読んでくれてありがとうございます。また別の記事でお会いしましょう!
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