岩切学長 × SDGs推進室 インタビューシリーズ(その2)
「つながるエシカル」は、授業の担当教授にその授業に対する思いや授業内容についてインタビューを行い、まとめた記事を掲載する、ICU生によるWebメディアです。記事が、自分らしい日常を過ごす手助けになれば幸いです。
今回は「岩切学長 × SDGs推進室 インタビューシリーズ」と題しまして、SDGsの観点から岩切正一郎学長にお話を伺いました。全3回の本シリーズ、第2回目では、SDGs17の目標を、ICU献学の理念やリベラルアーツといった観点から考えていきます。
<岩切学長のプロフィール>
東京大学大学院博士課程満期退学。パリ第7大学DEA。国際基督教大学アドミッションズ・センター長、教養学部長を経て、2020年4月から学長就任。文学メジャー担当。専門は、近現代フランス詩、フランス演劇、フランス文学など。
町井)ICUは、献学以来、恒久平和の確立に向けて様々な取り組みを進めています。これは、SDGsという言葉が生まれる前からの取り組みですね。これに関して、学長はどうお考えですか?
学長)元々、ICUは、第二次世界大戦後に平和のために献学されました。世界人権宣言が大学の理念に取り入れられているのも、ICUの基礎に平和と人の権利があるからです。また、ICUの中に理念として入ってくる平和は、単にあるものを頂いたというのではなく、自分たちで構築するものだと思います。そういう意味では、「前に進んでいく」というSDGsの価値観は、ICUの設立理念と非常に合致していると思います。例えば、自然環境は、人が人らしく生きるために、献学以来ずっと守り続けてきたものです。ICUそのものが、SDGsの目標を実現するものとして在り続けてきたわけです。また、ICUには「明日の大学」という理念があります。「明日の方が、今よりいい」という概念です。明日の方が今より深い理解をして、その結果、新しいものが生まれていると信じている。今はないものを明日実現するために、その構築手段として、私たちはICUで勉強や研究をしているんです。大学での学びは、developmentで、SDGsと関わりがあると捉えることができますね。
町井)SDGsの達成には、様々な絡み合った問題を解決する必要があり、単一的な思考ではなく、批判的思考が求められると思います。
学長)批判的思考というのは、何事も鵜呑みにせずに、エビデンスがあるかを客観的に検証していくという精神の態度ですよね。これは大事だと思います。自分たちが達成しようとすることが、危うさを孕んでいるということを自覚して、目配りをしながらより良いものを生み出していく必要があるんです。その点で、ICUでSDGsに取り組むことは、1つの社会実験のようなものだと思います。現在の世界動向やエネルギー問題を考慮して、ICUで「SDGsのための取り組み」を全て受け入れた時、今の生活を維持できるのか、という問題が生じます。ICUキャンパスで二酸化炭素排出ゼロを実現すると、大学の財政基盤が弱くなる可能性があるからです。理想の追求には、データを、批判的な思考によって判断する必要がありますね。
町井)リベラルアーツ教育という観点から、ICUはSDGsにどのように貢献できるのでしょうか?
学長)リベラルアーツのアーツは芸術という意味ではなく、学術、学問という意味ですよね。そこには、当然、知識やスキルの修得が含まれています。アーツとはもう一歩、情念やパッション、直感的なひらめきというものに通じている概念だと思います。例えば、友人や教授とキャンパスで喋ることは、計算方法を身につけるのとは違いますよね。そして、そういった日常的な対話の中でふと閃いたりすることがあると思います。そういう日常の場がリベラルアーツだと思います。ICUの学生は、専門が異なる人ばかりだから、ほとんど無意識の内に行っているかもしれないけれど、各個人が修得した理論では対応できないような話を日頃していて、そこに学びがあると思う。理屈ではなくて、人間の感情に根ざした学びや探求があって、やっと世界を変えられるのだと僕は思います。
町井)個人的に、SDGsは、それこそ住むために必要な何かという話が多いという印象を受けます。そのために必要なメンタリティというか、内面的なものは示されていないと感じることもあります。
学長)僕は文学メジャーなんですが、確かに、人文系はSDGsのdevelopment的なものと結びつけにくいですね。これは、SDGsという概念では包み込めないものもあるということです。実際、単なる社会的・物質的な改革が目標に掲げられやすいけれど、それが達成された時、人間の心がどう豊かになるんだろう?目標を達成した後、人間に何が残るかというのが最終的には芸術や思想に繋がっていくと思います。ゴールを達成するのは何のためか、というもう一歩踏み込んだところから行動することが大切ですね。一方で、SDGsは、表面的にみると、技術的目標とか社会目標みたいに見えるけど、そこには人間への理解があるはずだと思います。人間らしさがあるからこそSDGsがあって、その特徴は、リベラルアーツとの親和性が高いんじゃないでしょうか。今は、具体的に「〇個めのSDGsに取り組んでいます」と社会に発信しなければならないけれど、SDGsが社会に実装されていくに伴って、批判的思考や対話が社会に広まっていけば、結果的にSDGsは内面的なものと結びついていくと思いますよ。
以上、岩切学長のインタビューでした。
感想や意見など、Google form(リンク)からお待ちしています。
また、岩切学長へのインタビュー記事は、その1、その3もございますので、そちらも是非確認してみて下さい。
ここまで読んでくれてありがとうございます。また別の記事でお会いしましょう!
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