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「世界人権宣言から始まった - SDGs時代の国際人権」参加レポート(第一部)

ICUと世界人権宣言にはとても密接な関係があります。学生の皆さんは入学時に世界人権宣言に署名をしたこと、覚えていらっしゃいますか?私は恥ずかしながら、署名するときに初めて世界人権宣言という存在を知りました。コロナウイルスの影響でオンラインの入学式だったこともあり、私は郵送されてきた誓約書に何も考えることなく、とりあえず名前をかいたような記憶があります。ICUでの生活も2年を過ぎようとしている中、私は思い立ちました。今こそ世界人権宣言について学ばなければ!!

今回は、そんな筆者が、第7回ICU同窓会リベラルアーツ公開講座「世界人権宣言から始まった - SDGs時代の国際人権」に参加し学んだことを共有します。ICUと世界人権宣言の関わりや、リベラルアーツと人権の関連性、SDGs時代に人権はどのような役割を果たすのか。これまで人権に関心があったけれど学ぶ機会がなかったという学生の方は是非ご一読ください!


【イベント概要】

日時: 2022年2月26日(土)13:00-15:15

場所: オンライン

主催:国際基督教大学同窓会協賛:国際基督教大学

講師: 滝澤 美佐子(桜美林大学リベラルアーツ学群教授)望月 康恵(関西学院大学法学部教授)

富田 麻理(亜細亜大学国際関係学部 特任教授)吉村 祥子(関西学院大学国際学部教授)

フライヤー:https://www.icu.ac.jp/events/no7liberalarts.pdfプログラム:

オープニング挨拶 国際基督教大学同窓会会長 櫻井 淳二第1部 リレー講演 13:10 – 14:10

滝澤 美佐子「国際人権の始まりと歩み」

望月 康恵 「SDGs=人権?」

富田 麻理 「少数者の人権はなぜ守らないといけないの?」吉村 祥子 「子ども目線で国際人権をみてみよう」

第2部 パネルディスカッション 14:15 – 15:00

ファシリテーター: 秋山 肇

講師: 滝澤 美佐子、望月 康恵、富田 麻理、吉村 祥子

「日英仏三言語版『ビジュアル版 世界人権宣言』の翻訳・出版」学生メンバー:岩崎 彩子(プロジェクトリーダー)、神道 朝子(チームリーダー)

クロージング挨拶 国際基督教大学学長 岩切 正一郎

【第一部 リレー講演 普遍的な国際人権の確立と現在】

第一部では滝澤教授、望月教授、富田教授、吉村教授によるリレー講演が開催されました。本記事では講演の内容を

  • 世界人権宣言の成り立ちと人権の広まり

  • 世界人権宣言とICU

  • 国際人権の課題

  • SDGsと人権の関係

  • 国際人権とマイノリティ

  • 子どもの権利に分けて紹介します。


世界人権宣言の成り立ちと人権の広まり

世界人権宣言は、以下の文章から始まります。


「人類社会のすべての構成員の固有の尊厳と平等で譲ることのできない権利とを承認すること は、世界における自由、正義及び平和の基礎であるので、人権の無視及び軽侮が、人類の良心を踏みにじった野蛮行為をもたらし、言論及び信仰の自由が受けられ、恐怖及び欠乏のない世界の到来が、一般の人々の最高の願望として宣言された(中略)すべての人民とすべての国とが達成すべき共通の基準として、この世界人権宣言を公布する。」


世界人権宣言は「すべての人とすべての国が到達すべき共通の理想(基準)」として、人間の尊厳を淵源に成り立つ権利を30条に掲げています。第二次世界大戦の反省の下、国連において人権委員会が発足し、エレノア・ルーズベルトを中心とした、政治的・文化的・宗教的に異なる8カ国の委員が宣言草案の策定に携わり、最終的に国連総会で採択されました。その後、世界人権宣言の提示する理念のもと、人種差別撤廃条約や子どもの権利条約、障害者権利条約など国連では主要な人権条約が9つ採択され、それらの条約の多くに議定書が追加され、個人通報制度などの実施措置を備えるようになっています。


参考

Universal Declaration of Human Rights


世界人権宣言とICU

ICUの湯浅八郎学長らは世界人権宣言の理念に感銘を受け、これをICUに入学する全学生と共有することに決めました。1953年の第1回入学式以来、ICUでは世界人権宣言の原則に立ち学生生活を送ることを記した誓約書に署名を行っています。

では実際に、世界人権宣言の内容をどのように実践すれば良いのでしょうか。世界人権宣言というとその崇高さから遠い存在のように感じてしまう方もいるかもしれません。

1953年にルーズベルトがICUを訪れた際の、ICU生との質疑応答の記録があります。“What can Japanese students do in upholding the Universal Declaration of Human Rights?” 「日本の学生が世界人権宣言を掲げて行動するにはどうしたらよいですか?」という学生の質問に対して、“Live up to it. This can be done at home.” 「身の回りで実践しなさい。これは住んでいる場所で行われるのです」と返答しています。人権は遠く離れた場所ではなく、身の回りで守られる権利なのです。


国際人権の課題

ここまで、人権とはすべて人に関係する普遍的な権利であり、個人で実践可能な権利でもあることを学びました。一方で国際人権には課題も存在します。その一つは、国際人権の保障の責務の保持者は「国家」だということです。国家の枠組みを超えた社会問題に対処できなかったり、国によって人権保障の実践状況が異なってしまうという問題を抱えています。また、マイノリティに対しての権利保障が手薄であるという問題点も挙げられています。


SDGsと人権の関係

望月教授は、SDGsと国際人権は不可分であり、SDGsは人権を保護し促進するものだと語られました。SDGsは「人権」に言及していません。しかし、2030アジェンダでは、人権理念と人権の実現の重要性が強調されています。

特に、以下の目標は人権規範との関係がより明らかです。


SDGs推進室は持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています


さらに、SDGsから国際人権を捉える三つの意義が指摘されます。

一つ目は包括的な視点です。様々な人権が確認されると、人権の相互の関係性が問題となります。例えば、女性の権利と社会伝統・文化どちらを優先すべきかなどです。しかし、これらはどちらも大事です。SDGsは人権について階層的な考えを超えることができます。

二つ目は自発的な参加です。国際人権は「国家」が責任の主体ですが、SDGsの実現には、国家を含む様々なステークホルダーによる、多様なアプローチと行動が求められます。

三つ目は将来の視点です。SDGsは明文化されたゴールです。各国は、ゴールに対する達成状況を定期的にチェックすることで、課題解決にむけた実践的なアプローチを実行することが可能になりました。

このようにSDGsは国際人権の理念に基づいており、SDGsと人権は切り離すことができないものなのです。


国際人権とマイノリティ

国際人権の抱える課題の一つであった、マイノリティへの権利保障に関して、どのようなアプローチがなされているのでしょうか。国連は、機構の目的の一つに人権の保護促進がかかげられていますが、それには、ドイツのユダヤ人に対するホロコーストの反省があり、少数者の人権は重要な位置を占めてきました。国際人権法では「少数者」が誰のことを指すのかはっきり書かれていません。世界人権宣言が採択されてから75年近く経った今日でも、人権の基準がない分野があります。その一つが性的少数者(LGBT)の人々の権利です。これは世界人権宣言が成立したときにLGBTの権利が認知されていなかったからだといわれています。 しかし、人権の認知や基準は時代によって変遷していきます。人権基準がなくとも、SDGsは、「誰一人取り残さない」という考えのもと、「目標5. ジェンダー平等を実現しよう」にて、ジェンダー平等が、貧困や教育、平和といった課題とともに解決されるべき課題であると補完されています。

ただ、直接的な言及はなくても、LGBTの人々の権利を保障できる国際人権は数多く存在します。すべての人々の人権が守られるためには、人権教育が重要です。


子どもの権利

吉村教授からは、子どもの持つ権利についての講演をしていただきました。子どもの権利とは、 18歳以下の子どもを対象に、生きる権利や守られる権利、育つ権利などを保障したものです。第一次世界大戦後に採択された、「子どもの権利に関するジュネーブ宣言」をもとに、1989年「子どもの権利条約」が採択されました。2021年現在、196か国が批准しており、人権条約の中で最も多い批准数となっています。

多くの国によって批准されている条約ではあるものの、その達成にはほど遠い状況が続いています。2016年時点で、世界では1億5200万人の子どもが労働をしており、そのうち7300万人が危険有害活動に従事していると推定されていましたが、現在その数は増加傾向にあります。また、最近日本でも、生まれ持った環境に応じて人生が大きく影響を受けてしまう、子どもはどの親に生まれてくるかという運によって人生の「当たり」や「ハズレ」が生じてしまうという考え方を表した「親ガチャ」という言葉が多くの共感・議論を生みました。どのような国、どのような状況下で生まれてきても、子どもの権利は保障されるべきであり、大人は率先して権利保障のための環境を作っていく必要があります。

子どもでなかった大人はいない。すべての子どもの権利が保障され、生きることができる社会の達成のために、私たちは何ができるでしょうか。


【編集後記】

世界人権宣言をどこか遠い存在のように考えていた私にとって、身近で実践可能な権利であるという学びはとても大きなものでした。また、時代によって少しずつ「すべての人」に含まれる意味が変わっていることも興味深かったです。LGBTの方々のように、マイノリティの権利保障は、まず人々の認知から始まります。身近な社会に目を向け、そこで暮らしている様々な人との関わりを持つことが、世界人権宣言を実践する第一歩なのではないかと考えます。皆さんは世界人権宣言をどのように実践していきますか?是非ご意見をお待ちしております!ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

 
 
 

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